温泉旅館に行くと、仲居さんに「心付け」を渡すという、昔ながらの習慣があります。
年配の人にすれば「当たり前」のことかもしれませんが、若い世代の人たちの中には、「心付け」そのものを知らないという人も、かなりいるようです。
旅館に泊まるときには、宿泊料金を支払っていても、必ず「心付け」を渡さないといけないものなのでしょうか。
旅館での心付け
「心付け」は、旅館に宿泊するときに、仲居さんなどに、いろいろとお世話になることに対する感謝の「気持ち」として渡す、チップのようなものです。
心付けは、感謝の気持ちを表すものなので、厳密にはチップとは性格の異なるものだともいえますが、チップと考えると分かりやすいでしょう。
心付けは「気持ち」なので、必ず渡さなければならないというものではありません。
日本の場合、旅館で宿泊する際の料金には「サービス料」が加えられていることが一般的なので、本来なら、「心付け」は必要ないといえます。
「サービス料」として上乗せされていない場合でも、旅館はサービスを提供することが仕事なので、宿泊料金には、当然サービス料が含まれていると考えるのが妥当だといえます。
心付けを渡すのも渡さないのも、宿泊する側の気持ちの問題というわけです。
ただ、「宿泊料金の必要ない小さい子供がいる場合」「ケガをしていて通常より手間をかけてしまうことが予想される場合」「記念日や誕生日などで特別なお願いをしている場合」などには、心付けを事前に渡しておくといいかもしれません。
また、「宿泊中に部屋を汚してしまった場合」や「騒ぎすぎて迷惑をかけてしまったりした場合」などに、申し訳ないという気持ちを表すために渡したり、「対応がとても素晴らしかった場合」に感謝の気持ちを表すために渡したりすることもあるようです。
心付けの金額
一般的な心付けの金額の相場は、宿泊料金の10%程度といわれています。
具体的な金額でいうと、少人数で宿泊する場合には2,000円~3,000円程度、家族連れなどで人数が多い場合には3,000円~5,000円程度が目安になるともいわれていますが、心付けはあくまでも「気持ち」なので、1,000円程度でも全然問題はありません。
実際、一般的な旅館で渡す心付けの金額は、1,000円が一番多かったというアンケート結果もあります。
心付けの渡し方
心付けを渡すタイミングは「これからよろしくお願いします。」という意を込めて、仲居さんに部屋に案内された時に渡すということが多いです。
部屋に案内されると、大抵、仲居さんがお茶をいれてくれますが、この時に仲居さんに渡すのがベストのタイミングといわれています。
仲居さんが部屋を出ていくときに、さりげなく渡すとスマートに渡せます。
心付けを渡すときには、お札をそのまま渡すのではなく、ポチ袋、懐紙、白い封筒などを用意していればそれに入れて、なければティッシュに包んで渡します。
表書きはなくてもいいですが、書くとすれば「松の葉」または「花一重」と書きます。
「松の葉」は「松の葉で包めるほどのわずかな気持ち」という意味で、
「花一重」は「花びら一枚ほどのわずかな気持ち」という意味です。
お札は、三つ折りにして入れますが、折り方は、肖像のある表面を上にして、最初に左側から折って、次に肖像のある右側を折ります。
ただ、「心付けは不要です」と断られることもありますが、仲居さんが心付けを受け取ることを禁止している旅館もあるので、無理に渡すことは止めましょう。
また、受け取ったとしても、領収書を渡されたり、精算時に前払い金のように扱って相殺されていることもあります。
心付けは渡さないのが原則?
戦後、海外の習慣の「チップ」が日本にも輸入されましたが、日本の文化には馴染みませんでした。
その代わりに、一律に科す「サービス料」(10~15%程度) が生まれました。
海外では、宿泊料は、文字通り宿泊のみの料金を指しますが、日本の場合には、宿泊に付帯する世話代も宿泊料金に含まれるのが一般的です。(サービス料として、別途表記することもあります。)
このため、旅館側で「心付けは不要」などと、宿泊規定などで明記している旅館もたくさんあります。
チップと心付けは、多少意味合いが違うところもあるので、一概には言えませんが、制度としては、チップとしての「心付け」は、渡さないのが原則といえそうです。
「心付け」と「チップ」の違い
日本では、チップを渡す習慣がないので、「心付け」も「チップ」も同じように捉えてしまいますが、実際には違いがあります。
「チップ」が、提供されたサービスに対して支払うべきお金(支払わなければならないお金)
であるのに対して、
「心付け」は、提供されたサービスに対する「感謝の気持ち」を表すお金
といえます。
「チップ」の習慣がある国では、チップは給料の一部と捉えられているので、チップをもらえないと給料が減るという感覚になりますが、日本の「心付け」は「気持ち」の表現方法の一つなので、心付けをもらえなかったとしても、給料が減るという感覚はありません。
実際に、海外では、チップを払わないと「払ってください」と言われることもありますが、日本で「心付けを払ってください」と言われることは、まずありません。
日本では「チップ」という習慣がない代わりに、ほとんどの場合は、サービス料として宿泊料金と共に支払っているからです。
心付けは「渡さない」が多数派
心付けは、温泉旅館に泊まる際の古くからの風習ですが、そもそも心付けの風習自体を知らないという若い世代の人も多くいます。
心付けに関する、アンケートの結果があります。
・必ず渡す:5%
・ときどき渡す:27%
・渡さない:42%
・心付けの風習を知らなかった:26%
26%の人が「心付けの風習を知らなかった」と答えていますが、この人たちは、当然のことながら心付けは渡していません。
心付けのことは知っていても「渡さない」という42%の人とあわせると、68%の人は、旅館に泊まっても心付けを渡していないということです。
約7割の人が、心付けは渡していないということなので、現状では「心付けは渡さない」という方が一般的になっているといえそうです。
まとめ
「心付け」はあくまでも「気持ち」なので、宿泊料金の高い高級旅館だから、心付けを渡さないといけないのでは、というようなことを考える必要はなさそうです。
逆に、宿泊料金の安い旅館でも、素晴らしいサービスを受けて、心からお礼をしたいと思ったときには、さりげなく心付けを渡せたらカッコいいですね。
感謝の意を表すということなら、心付けに変えて、帰宅後に「素敵なサービスをうけて、とても良い旅になりました」というような、感謝のハガキを送るのもいいかもしれませんね。