最近、酒粕が健康や美容に優れた効果を発揮すると注目を浴びています。
酒粕を使った飲食物といえば、「甘酒」や「粕汁」などが思い浮かびますが、甘酒は「飲む点滴」とも形容されるほど栄養たっぷりの飲み物で、女性で美容や健康のために甘酒を飲むという人も増えているようです。
甘酒も粕汁も、温かい冬向けの飲食物と思われるかもしれませんが、実は「甘酒」は、俳句では「夏の季語」にもなっているように、江戸時代には「夏の飲み物」として定着していたといいます。
夏に冷やした甘酒も、とても美味しいというわけです。
酒粕は、美容と健康にとても良いということから、発酵食品である酒粕を積極的に食生活に取り入れる人も増えてきているといわれています。
酒粕
和食ブームで、外国の人からも注目されるようになった「日本酒」ですが、「酒粕」は、その日本酒を製造する過程で作られる副産物です。
日本酒は、米を麹菌で発酵させて醸造しますが、製造過程でできたもろみを絞ってでた液体が「日本酒」になり、残ったものが「酒粕」になります。
「酒粕」は、日本酒を作る時にできる「残存物」ですが、豊富な栄養素を含んだ発酵食品として大きく注目されています。
酒粕に含まれている栄養素
酒粕に含まれている主な栄養素には、
たんぱく質
脂質
ビタミンB1
ビタミンB2
ビタミンB6
食物繊維
パントテン酸
亜鉛
葉酸
カリウム
ナトリウム
カルシウム
マグネシウム
リン
鉄
銅
などがあります。
たんぱく質
人間の体を作る栄養素です。
筋肉、骨、髪の毛などは全てたんぱく質で作られています。
また、代謝を促進させて抵抗力を高める作用もあります。
ビタミンB1
代謝にも関係するビタミンで、糖質をエネルギーに変える作用があります。
精神状態を安定させる作用も持ち合わせています。
ビタミンB2
皮膚の粘膜を健康に保つ作用があり、ダメージを受けた細胞の再生を助けます。
疲労の回復を早める作用も持ち合わせています。
ビタミンB6
細胞の働きを正常に保つ核酸の働きを促進する作用があります。
髪の毛や皮膚などの成長を促して神経の働きを正常にしてくれます。
食物繊維
腸内の掃除をして老廃物を体外へ排出する、便秘解消に効果的な栄養素として有名です。
血糖値、コレステロール、血圧などを正常に保つ作用がありますが、大腸がんを予防するのにも効果があるといわれています。
パントテン酸
脂質、糖質、タンパク質を分解してエネルギーを作り出す酵素を助ける作用があります。
皮膚や粘膜を健康に維持するのにも役立ちます。
亜鉛
ホルモンの分泌を助ける作用があります。
生命の維持、細胞の正常な働きの維持に欠かせない栄養素です。
葉酸
ビタミンB群の一種。
細胞の生成をサポートして、皮膚の粘膜を強化する働きがあります。
酒粕のパワーの秘密は「レジスタントプロテイン」
酒粕に含まれている「レジスタントプロテイン」というたんぱく質は、消化されにくいという性質があるといわれています。
たんぱく質は、体に吸収されてその働きを発揮しますが、このレジスタントプロテインは、普通のたんぱく質とは少し違って、「食物繊維に近い性質」をもっているので、胃腸では消化されにくく、油分や脂肪分をしっかりと捕まえることができるといわれています。
摂り過ぎた油・脂肪分を、レジスタントプロテインがしっかりと捕まえて、便と一緒に体外に排泄してくれるというわけです。
レジスタントプロテインが吸収した油分が便に混ざることで、便が柔らかくなって排便しやすくなるという効果も期待できるといわれています。
レジスタントプロテインは、白米の状態の時にも含まれていますが、「白米の状態ではそれほど高い効果が発揮できない」ともいわれています。
レジスタントプロテインが、他の栄養素の成分に囲まれていて、十分に働くことができないというのが、その理由とされています。
日本酒を製造する過程で、麹菌で米を発酵させて旨味を引き出していきますが、この際に、麹菌の働きで栄養素が分解されて、体に吸収されやすい形になるのだといいます。
米を発酵させることで、レジスタントプロテインの周りを囲んでいた栄養素も分解されて、体に吸収されやすくなり、その結果、レジスタントプロテインの効果がより発揮されやすくなることが、酒粕のパワーにつながっているというわけです。
酒粕を摂ることで期待できる健康への効果
糖尿病の防止・改善
「糖尿病」は、すい臓の働きが低下してインスリンが十分作られなくなることによって起こる病気です。
インスリンが十分作られなくなると、体内のブドウ糖が脂肪細胞に取り込まれなくなり、エネルギーを十分に確保することができなくなるので、体はエネルギー不足の状態になってしまいます。
インスリンとは逆に、脂肪を分解するホルモンもありますが、健康な状態ではこれらのホルモンがバランスのとれた状態になっているといわれます。
インスリンが減少すると、脂肪を分解するホルモンが活発になって急激に痩せることもあります。
「酒粕」には「インスリンに似た働きをする物質」が含まれていて、この物質に脂肪を分解するホルモンの働きを弱める働きがあるので、このホルモンの働きを弱めることでインスリンの働きを正常に戻すことができるのではないかということが期待されています。
酒粕のインスリンに似た物質の糖尿病の予防効果が期待されているというわけです。
アレルギー体質の改善
ウィルスやアレルギーの原因物質などの外敵が体内に入ってくると、体はそれらを退治してそれらに対する抗体をつくり、その後も同じように外敵を退治していきますが、この仕組みが敏感に働き過ぎて体に影響を及ぼすのが「アレルギー」です。
アトピー性皮膚炎や花粉アレルギーの症状は、「カテプシンB」という酵素によって作り出される免疫グロブリンが原因となって引き起こされるといわれています。
酒粕には、この免疫を創り出すカテプシンBの働きを阻害する物質が含まれているので、アレルギー体質を改善する効果が期待されるというわけです。
骨粗しょう症の予防
年齢を重ねると、骨のタンパク質を分解する酵素「カテプシンL」が増えて、骨がもろくなりやすくなり、骨粗しょう症になりやすくなるといわれています。
酒粕には、このカテプシンLの働きを阻害する成分が含まれているので、酒粕は、骨粗しょう症の予防に役立つと考えられています。
血圧の上昇を防いで、血栓をできにくくする
酒粕のたんぱく質が腸内でアミノ酸に分解される際に、「オリゴペプチド」という物質が生成されますが、これがアンジオテンシン変換酵素(ACE)の働きを阻害するので、血圧の降下に効果を発揮するといわれます。
降圧剤にACE阻害薬という種類の降圧剤がありますが、これと同じような働きをして血圧を下げてくれるというわけです。
さらに、酒粕には血栓を溶かす作用がある「ウロキナーゼ」という酵素が含まれています。
ウロキナーゼは、酒や焼酎などを飲むと分泌される酵素ですが、これらのアルコールを飲まなくても、酒粕からウロキナーゼを摂取することができます。
血栓ができにくくなるということは、血栓によって起こる「脳梗塞や心筋梗塞の予防」にもつながるというわけです。
便秘の解消
酒粕は100種類以上の酵素が含まれていて、これらの酵素が消化器官の働きをサポートしてくれます。
酒粕に含まれている「レジスタントプロテイン」には、腸内の善玉菌を増やす作用もありますが、善玉菌は、腸内の悪玉菌が増えるのを防いで有機酸の生成を増やして腸内を弱酸性に保ってくれます。
腸内環境が改善されることで、「便秘が解消されて便通がスムーズになる」ことが期待できるというわけです。
また、レジスタントプロテインは、余分な油分をしっかりと吸収して腸まで運んでいきますが、この油分が便に混ざることで、便が柔らかくなって排便しやすくなるという効果も期待できるといわれています。
豊富な食物繊維
食物繊維には、「水溶性(水に溶ける)」と「不溶性(水に溶けない)」の2種類があります。
「水溶性の食物繊維」は、水分を抱き込んでゲル化し体内の不要物を体外に排出しますが、もう一方の「不溶性の食物繊維」は、水分を吸収して腸内で膨れ腸壁を刺激して腸の動きを活発にするといれます。
便秘を解消するためには、この二つの食物繊維がバランスよく作用する必要があるといわれています。
酒粕には、100g中に約5.2gの食物繊維が含まれているとされますが、これは白米の約10倍の量に相当します。
この食物繊維は不溶性で、水溶性の食物繊維と同じ働きをするレジスタントプロテインとの相乗効果で「便秘の解消」に効果的に作用するといわれています。
美肌効果
酒粕には、スフィンゴ脂質というセラミドが含まれていますが、スフィンゴ脂質は、角質層で細胞と細胞をつなぎ合わせ、肌の潤いを保つ大切な役割を果たしています。
このスフィンゴ脂質には、シミなどの原因となるメラニン合成を促す「チロシナーゼの働きを抑制する物質」が含まれていることが分かっています。
また、スフィンゴ脂質には、コラーゲンやエラスチンといった美肌成分を作り出す「線維芽細胞」の増殖を促進させる効果もあるとされています。
線維芽細胞が活発に働けば、細胞の生まれ変わりが促されて、自然と美肌が作られていくというわけです。
さらには、豊富な食物繊維で、肌荒れやニキビの原因ともなる便秘が解消しやすくなることで、不要物がデトックスされることも、美肌につながる効果が期待されるといわれます。
酒粕の酵母は加熱で死滅
酵母が生きている酒粕ですが、酒粕の酵母は「約40℃で死滅する」といわれています。
加熱することで、酵母は死滅してしまいますが、酒粕に含まれている栄養が全て無くなってしまうというわけではありません。
「ミネラル」や「食物繊維」などの熱に強い栄養素は、加熱してもそのまま残ります。
ただ、酒粕特有の「酵母」や「ビタミン」などの熱に弱い成分は、壊れやすくなってしまいます。
「酒粕などの発酵食品は、加熱せずに食べた方が良い」といわれるのはこのためです。
粉やペースト状にしてヨーグルトに入れたり、豆乳に混ぜたりすれば、加熱しなくてもおいしく食べることができます。
市販されているブロックや欠片になったタイプのものは、既に「加熱処理」されているものがほとんどです。
健康や美容のためには「生タイプ」の方がより効果が期待できますが、使いやすさという点では「加熱タイプ」に軍配が上がります。
酒粕の一日の摂取量の目安
酒粕のカロリーは、100gで227kcal程度だといわれています。
成人女性の1食分の摂取カロリーは、平均で650kcal程度といわれるので、酒粕を300g食べると、ほぼ1食分のカロリーを摂取することになります。
ちなみに、白米のご飯は、100gで168kcal程度といわれています。
摂取カロリーのことを考えると、酒粕は、1日に50gくらいまで、多くても100gくらいまでの摂取にしておくのが良さそうです。
ただ、これは、酒粕をそのまま摂取する場合のことなので、粕汁や甘酒など、成分が薄まっている場合は、それ程、気にする必要はないかもしれません。
まとめ
酒粕は、健康と美容にとても良い効果をもたらしてくれます。
価格もリーズナブルなので、財布にも優しい食材といえます。
酒粕は、季節商品として扱っているところが多いので、冬場は比較的手に入れやすいですが、夏場に販売している店は少なくなります。
健康や美容のために、酒粕を毎日食べたり飲んだリする場合は、ネット通販などを利用すれば、一年を通して購入しやすくなります。
酒粕を常備しておいて、いろいろなものに使ってみて、おいしい食べ方を見つけてみてください。