アスペルガーの問題行動、学級崩壊のはじまり【息子-16】

進級したての時期、教室では子供同士や先生との間で「探り合い」をする時期があります。

小学校でも高学年になると、先生に対する評価はシビアです。

「皆を公平に扱うか」「理不尽な怒り方をしないか」「皆が納得できる提案をするか」など、かなり冷静に察知します。

クラス作りが空回り

アスペルガー症候群やADHDなどの発達障害の子供は、大抵は悪気なく失敗や無作法を繰り返しがちです。

そんなとき「上手な先生」は、子供達をしっかり引きつけ、集中するべきことを一つずつ提示します。

すると、アスペルガー症候群などの発達障害の子供たちが失敗しづらくなり、結果クラス全体で授業や他のプログラムの質が高まります。

I先生は、そのあたりがあまり上手ではありませんでした。

「さあ、あなたたちは、ついてこられる?」といった挑発するような授業をします。

ついて来られる子を褒め、そうでない子を煽るように扱うことで、発奮を促そうとしました。(年度初めの懇談会でのI先生本人の弁)

最初は「高学年ともなれば、こうやって子供たちのやる気を引き出すのか。」と思いましたが、一学期の終り頃には、学級崩壊のうわさがたち始めました。

アスペルガー太郎の問題行動(その1)

太郎は、まず授業に参加しなくなりました。

宿題はきちんとやって提出をし、テストもほぼ満点でしたが、授業中に本を読むようになったのです。

最初は、教科書の他のページを読んでいたようですが、読破した後は、自分が持って行った本を読んで授業中を過ごすようになりました。

当然先生も怒りますし、周りの子供たちもズルイと感じます。

先生からは、毎日のようにお叱りの電話がはいりました。

私は、太郎に先生の話を伝えて諭しましたが、太郎の反応は鈍く、なかなか理由も言いませんでした。

その年度、初めての授業参観に行って、私はその理由に気が付きました。

I先生がとても早口なのです。

ペラペラとした感じで、強弱や緩急が乏しく、一本調子な早口なのです。

大人の私が聞いていても、分かりづらいと思いました。

太郎の場合、アスペルガー症候群の特性として、耳からの情報を得づらいという特徴があります。

これは、太郎には相当不利だと思えました。

太郎に確認してみると、

「お母さんが聞いてもそう思った?先生が早口すぎて、何を言っているかほとんど分からないんだ。」
「教科書の音読も、いきなり始まってどこを読んでいるのかわからない。」
「正直、何の質問をされているのか、ほとんどわかんない。」
「めちゃくちゃつまんないから本を読んでいる。」

ということでした。

こんな理由では私に怒られると思って、なかなか言い出せなかったようです。

I先生との面談が叶わない

「太郎、良く分かった。早口とか、授業の様子とか、お母さんも気になるところがいっぱいあった。だから、お母さんは前にS先生にお願いに行った時みたいに、I先生にもお願いに行ってみようと思う。ちょっと時間はかかるかも知れないけど、事態打開を期待して待っててちょうだい。」と、私は太郎に言いました。

でも、結局、私が希望した面談はかないませんでした。

スクールカウンセラーと教頭先生が、まず私の話を聞いてくれました。

太郎が話したことの事実確認をする必要があると思ったからです。

二人からは「I先生との面談は待って欲しい」と言われました。

今はクラスの中で、太郎よりも他の子供の問題が大きくて、担任はそちらの対応でアップアップの状態だから、とてもお母さんの話を聞ける状態ではない、という説明でした。

私は驚きました。

I先生からは、お叱りの電話を何度も受けていたので、クラスの中で太郎の問題が一番大きいのだろうと私は考えていました。

私としては、太郎のアスペルガー症候群に配慮をお願いする立場です。

太郎の問題行動には、親としての指導力の至らなさを申し訳なく思い、平謝りに謝りました。

なんとか太郎の行動を改めさせようと、ありとあらゆる工夫を試み、それはもう必死でした。

後に知ったことですが、問題の大きい方のお子さんの家庭には、ほとんど電話はされていませんでした。

どうやら、先生にとっては、私が話しやすい保護者だったために、I先生の電話は私に集中していたようでした。

「先生が怒る」≒「石が当たる」

クラスの中には、太郎とは違うタイプの発達障害らしき子供さんも数人いました。

その子たちは、それぞれの事情で、太郎と同じように授業について行くのが難しかったといえます。

彼らは、授業中に暇を持て余し、授業妨害をするようになっていました。

I先生の「いっぱいいっぱい」は、その対応でだったのだと思います。

先生の早口に加え、その子たちが余計に騒がしくするので、ますます太郎は先生が何を言っているのか分かりません。

I先生は、授業妨害をする子供たちを怒り、その合間に我関せずで本を読んでいる太郎をも怒るのが、日常になっていました。

太郎はその時の様子を、次のように説明しました。

「お母さん、まるで川の中のようだよ。ザーザーガーガー周りで(音が)流れて行くんだけど、その中に石(先生が自分を怒ること)が混ざってて、急に僕にコツン、コツンって当たるんだ。」

アスペルガー症候群に治療薬はない

この後、太郎の様子は深刻化していきます。

ストレスで笑顔が減りました。

ゲームにのめりこんで行ったのもこの時期です。

イライラしやすく、まるで目の前に肉をぶら下げられたワニのように、何にでも噛みついて行くような怒り方をするようになりました。

顔つきもきつくなり、荒れている時の爬虫類のような顔が続きました。(ちなみに、落ち着くと哺乳類に戻ります。)

この「爬虫類⇔哺乳類」の顔つきの変化は、これまでの担任の先生(I先生以外)は皆さん気付いてくれました。

太郎ノートを持って説明に行くと、「お母さん、認知の幅が狭くなったり、調子が悪くなった時のサインは何かありますか?」と大抵の先生が聞いてくれました。

発達障害のタイプや、その子供によってサインの出方は千差万別だと思いますが、何故か太郎の場合は「爬虫類化」でした。

先生方は最初一様に「?」という反応を示されます。

でも、しばらく太郎に付き合ってその表情の変化に気付き、更に自分の声掛けや働きかけで太郎の表情が「哺乳類化」できると、嬉しそうに「お母さん、太郎の爬虫類、分かりました!」と知らせてくれました。

アスペルガー症候群に治療薬はありません。

あくまでも、周囲の支援者が関わり方を工夫して本人の気付きを育てるしかないのです。

でも、本人の問題行動が重なってくると、親としては何か解決策はないかと焦ります。

試せることは何でも試すことをお勧めします。

科学的でなくても良いと思います。

お祓いだって良いと思います。

何かせずにはいられない思いを行動に移して、精神的に参らないようにするべきです。

アスペルガー太郎の問題行動(その2)

アスペルガーの太郎は、次第に微妙な立場に追い込まれます。

「なんだお前は、ずっと本ばっか読みやがって。お前だって俺たちと同じように怒られてるんだぞ。お前だって悪いんだぞ。」と、他の授業妨害をしていた子達から煽られるようになったのです。

彼らが太郎に注目してからみつくほど、何故か、太郎はその子達に取り入ろうとしました。

その子達に「なんだお前は。お前にはガラスなんか割れないだろ。」と言われれば、太郎はガラスを割りました。

似たような事件が、立て続けに起こりました。

上級生になぐられたり、お金の要求をされたこともありました。

頭からビールをかけられて帰ってきたこともあります。

先生という求心力を失った教室は、まさにカオスです。

発達面の弱さや家庭での問題など、様々に背景を抱えた子供同士が、つぶし合いを始めるのです。

中でもアスペルガー症候群の子供達は、いじめられやすい傾向にあると思います。

いじめの被害を学校側に訴えてみると、加害側の子も発達障害であるというケースは良くあります。

事態は、日を追うごとに益々悪化するように、私には思えました。

そんな中で、一度だけI先生との面談がかないました。

でも、一時間半におよんだ面談のうちのほとんどが、I先生の愚痴で終わってしまったのです。

内容は、クラスの状況や自身の体調不良、納得の行かない人事をした校長への不満などでした。

肝心の太郎のことについては、ほとんど話ができず、かろうじてこれまでの太郎ノートのコピーを「よろしければ参考に」と渡すのが精一杯でした。

私が聞き役になることでI先生がすっきりするならば、それも良しです。

I先生が私の話を聞く余裕も、アスペルガーの太郎の特徴に配慮する余裕もないことだけは良く分かりました。

アスペルガー太郎の問題行動(その3)

2学期になると、とうとう太郎が、完全にI先生を拒絶し、教室内での「報復」に参加するようになりました。

太郎自身が率先して授業妨害をしたというよりは、尻馬に乗ってダメ押しの発言をするのです。

言語性IQ150以上のアスペルガー症候群の本気の嫌味は、とても破壊力があります。

かなり的を射た内容(周囲が思わず納得してしまう)を、報復目的でしっかり言うので、先生は激怒することになるのです。

私はやめさせようと、あらゆる手を尽くしました。

でも、太郎自身の気持ちがすさんでいて、説得することはできませんでした。

太郎が恨みを持ってしまうと、それをなだめることは不可能なのではないかと、私は思っています。

アスペルガー症候群の子が一度考えを固定化してしまうと、それを修正するのはかなり難しいのです。

決定打となった「学級だより」

I先生も追い詰められていました。

I先生が怒りだすと、生徒指導の先生が職員室からすっとんで来るという状況でしたし、PTA役員の仕事で職員室の前を通りかかった時には、I先生が大声でかなり感情的になっているのが聞こえたこともありました。

2学期の中頃、I先生は、クラスの「悪者チーム(太郎含む)」の問題を、B4用紙5枚つづりという超長文の「学級だより」として、クラスの保護者に配布しました。

言語性の能力に頼るHは、聞いたことは余り理解できない代わりに、活字になったものを絶対視する傾向があります。

アスペルガー症候群らしい偏った極端な思考ですが、太郎は、この学級だよりの内容をしっかり理解し、自分がI先生と敵対していることを今更ながらに確認しました。

なぜ「学級だより」として配布する必要があったのか、私には理解できません。

我が家には、毎日のように先生からお叱りの電話があり、私は太郎の行いを正せないことを謝罪し続けていたので、手紙の内容は今更というものだったからです。

太郎は私に「学級だより」を渡しながら、はっきりと「学校に行きたくないです」と言いました。

専門家たちの激怒

私は、診断をしてくれた児童相談所併設の精神科のドクター、発達の伸び具合の検査を続けてくれていた臨床心理士、市の教育相談センターなど、あらゆる所に相談しました。

インターネットで近所のフリースクールを探し出し、お世話になれるかどうかの打診も始めました。

こうなると、話はどんどん進みました。

まず、精神科医や臨床心理士という専門家達が激怒しました。

普通こういった専門家たちは、学校で問題になった場合に、子供の特徴や対応方法の説明など、当事者と学校現場との間に立ってアセスメントを積極的に行ってくれます。

これまでは「お母さんの説明だけで理解が得られないようであれば、僕たちが出張ります」と言ってくれていました。

でも、I先生については「この人に説明しても無理。僕は話に行かないよ。」と明らかに見捨てていました。

「太郎君をどこかに避難させることを考えよう。僕が紹介できるフリースクールもあるし、市の制度も利用できるからね。」と即断でした。

臨床心理士チームは、すぐに教育委員会に問題を投げかけましたが、びっくりするほど周囲の動きが大掛かりでした。

必要ならば「学校に行かせない」

私は例の「学級だより」を持ってスクールカウンセラーを尋ねました。

学校内でこの手紙を了解しているのかの確認が必要でしたし、現実的にフリースクールを選択した場合の出席日数の扱いを、校長先生に交渉する必要があったからです。

校長裁量という形で、出席日数は認められることになりました。

太郎は、私の探したフリースクールを一目で気に入り、毎日そちらに通うことになりました。

そこでできた仲間たちとのびのびと過ごし、太郎はどんどん笑顔を取り戻していきます。

今振り返ってみると、太郎自身が成長する下地をとりもどすために「学校に行かせない」という選択は全くの正解でした。

太郎の場合、親が主導して不登校を選択する形になったので、太郎自身の限界ではありませんでした。

でも、太郎自身の気持ちが病んでしまうのを、私はどうしても避けたかったのです。

アスペルガー症候群の子は、他の子よりもずっと傷つきながら育ちます。

二次障害として、うつ病やその他の精神障害を発症する確率は、非常に高いです。

そのため、学校が適切ではないという時があったら、「学校に行かせない勇気」が親には必要です。

十分に学校現場の観察をし、改善が期待できないと判断した場合、思い切った決断が子供を救う場合があるということを、是非知っておいていただきたいです。

アスペルガーの対応として、我が家がやって良かったこと

砂糖を控える

「砂糖は脳を興奮させる」という研究結果があります。

料理に使う砂糖を、きび砂糖やてんさい糖など、分子レベルが大きくて吸収されづらいタイプの物に代え、おやつを甘い物からしょっぱいタイプの物に代えるだけで、太郎はずいぶん落ち着きやすくなりました。

漢方薬

自閉症は漢方でよくなる!/飯田誠著(講談社)」という本があります。

これを参考にしました。

この本のとおりにするには、東京にある著者(飯田医師)の医院で処方を受ける必要があります。

私たちは関西在住ですので、長期の通院は、現実的ではありませんでした。

なので、近くの漢方医のところにこの本を持っていき、参考にしてもらって「精神の安定」を目的とした処方をしてもらっています。

漢方は、効果がゆっくり現れますので、当初は、本当に気休め程度でした。

一時期は「もう必要ないんじゃない?」と考えて、服用をやめたことがあります。

結果、大荒れに荒れ出して効果を実感し、二か月後に復活させました。

かなりまずいのですが、本人も効果を確認したらしく、おとなしく飲んでいます。

コーチング

いわゆるビジネススキルの一つです。

最近は、子育てに特化したコーチングの本も充実してきました。

このコーチングスキルは、定型発達の子に向けて試すとびっくりするほど効果があります。

一般的な心理的反応を想定した声掛けの技術なので、アスペルガー症候群などの発達障害のタイプの子供たちは、本に書かれていること以外の「想定外の反応」をしがちです。

でも、このコーチングの良いところは、ある程度、大人(指導者)側の対応をマニュアル化することができるという点です。

それによって、感情をコントロールしやすくなり、冷静さを維持しやすくなります。