9月中旬のお彼岸の頃になると、赤い花を咲かせる「彼岸花」。
田んぼのあぜ道や土手などに咲いた彼岸花を見ると、何となく秋の訪れを感じます。
彼岸花
彼岸花は、秋のお彼岸・秋分の日の前後に花を咲かせるヒガンバナ科の多年草です。
秋のお彼岸の時期にだけ花を咲かせることから、「彼岸花」と名付けられたといわれています。
高さは、30cm~50cm程度まで成長しますが、花の咲く時期に葉はなく、葉をつける時期になると花はなくなっています。
花が咲き終わった後に葉がでてきますが、冬になっても枯れずに葉をつけたまま冬を越し、枯れるのは春になってからです。
彼岸花は、花と葉を同時に見ることがないので、「葉見ず花見ず」などと呼ばれることもあります。
彼岸花は、元々日本に生えていた植物ではなく、中国から稲の栽培が伝わってくる際に入ってきて、日本各地に広まっていったとされています。
彼岸花の開花時期
彼岸花は、9月中旬くらいから開花しはじめますが、開花している期間は1週間程度です。
最近は、品種改良された彼岸花もあり、8月や10月頃に見ごろを迎える花もありますが、一般的には、彼岸花は、秋のお彼岸・秋分の日の前後(9月中旬~下旬)に花を咲かせます。
雨が降った後は、咲き揃った彼岸花が見られるチャンスです。
彼岸花は、空気が乾燥した状態が続いた後に雨が降ると、雨が止んだ後に、花が一斉に咲くという性質があります。
「雨後の彼岸花」といわれたりもします。
彼岸花の名所といえば、埼玉の「巾着田(きんちゃくだ)」が有名です。
彼岸花の別名
彼岸花は、秋のお彼岸の時期に花を咲かせることから「彼岸花」と名付けられましたが、サンスクリト語に由来する「曼珠沙華(まんじゅしゃげ)」という別名がついていることを知っている人も多いのではないでしょうか。
彼岸花は、多くの別名をもつ花として知られていて、曼珠沙華のほかにも、たくさんの別名があり、その数は1,000種類に及ぶともいわれています。
一例を挙げると、次のような別名があります。
・曼珠沙華(まんじゅしゃげ)
・死人花(しびとばな)
・幽霊花(うれいばな)
・地獄花(じごくばな)
・捨子花(すてごばな)
・剃刀花(かみそりばな)
・痺れ花(しびればな)
・毒花(どくばな)
・狐花(きつねばな)
・雷花(かみなりばな)
・天蓋花(てんがいばな)
・葉見ず花見ず(はみずはなみず)
「死人」「幽霊」「地獄」など、不吉な言葉を使った別名が多くありますが、これは、彼岸花に「毒」が含まれていることが関係しているようです。
彼岸花に含まれている毒
彼岸花には、「リコリン」「ガラタミン」「セキサニン」「ホモリコリン」などの有毒成分を始めとして、約20種類の「有毒なアルカロイド」が含まれているといわれています。
ヒガンバナ科の植物の毒を含んだ汁を矢に塗って狩りをすると、獲物の体重が軽ければ、その毒で死んでしまうことがある位の殺傷力があるといわれています。
彼岸花の毒は、球根1g当たりに、約0.15mgのリコリン、約19mgのガラタミンなどが含まれているとされていますが、リコリンの1mgは、約100匹のネズミの致死量に相当するので、球根1gに含まれるリコリンで、約15匹のネズミを死に至らすことができることになります。
ちなみに、リコリンの人間の致死量は約10gとされているので、通常は、彼岸花の毒で、人間が深刻な症状になることはほとんどないといわれています。
毒を含んでいる箇所
彼岸花は、全草有毒(ぜんそうゆうどく)と呼ばれる植物で、葉、茎、球根を含めた、花全体に有毒成分が含まれていますが、特に、球根の部分に毒が多いとされています。
彼岸花の毒は、普通に触る程度なら問題はありませんが、毒抜きをせずに口に入れたりすると、中毒症状が出てしまうことがあります。
彼岸花は不吉な花?
年配の方の中には、「彼岸花は不気味で不吉な花」というイメージをもっている方も少なくないようです。
昔は、ネズミ、モグラ、ミミズなど、お墓を荒らす害虫や害獣を寄せ付けないようにするために、毒がある彼岸花を、お墓の周りに植えていたといいます。
田んぼのあぜ道に彼岸花が多いのも、同じ理由からだといわれます。
「彼岸花=お墓」「彼岸花=毒」というイメージが強かったため、「彼岸花は不気味で不吉な花」というイメージが定着していったようです。
彼岸花の別名に「死人花」「地獄花」「幽霊花」「痺れ花」などがあるのも、お墓や毒のイメージが影響していると考えられます。
美しくて可憐な花なのに、負のイメージがついてしまって、少しかわいそうな気もしますね。
彼岸花の花言葉
あまり良くないイメージのある彼岸花ですが、花言葉にはそんなに悪い意味のものはなく、なんとなく哀愁の漂うものや一途さが感じられるものが多いです。
・情熱
・独立
・再会
・転生
・あきらめ
・悲しい思い出
・想うはあなた一人
・また会う日を楽しみに
「悲しい思い出」は、お墓の周りによく生えていたことから生まれた花言葉だといわれています。
また、「情熱」は、他の花言葉とは少し違った印象がありますが、これは、彼岸花の真っ赤な花の色をイメージした花言葉だといえそうです。
彼岸花といえば、赤い花が思い浮かびますが、赤色以外にも黄色や白色の彼岸花もあります。
黄色の彼岸花の花言葉
・追想
・深い思いやり
・陽気
・元気な心
「追想」「深い思いやり」は、「彼岸花の花の咲く時期に葉はなく、葉をつける時期になると花はなくなっている」→「花と葉が同時に現れることはない」ということからつけられたといわれています。
また、「陽気」「元気な心」は、黄色のイメージを反映しているように思えます。
ただ、黄色い彼岸花は、実は、彼岸花そのものではなく、彼岸花とは別種の「鍾馗水仙(しょうきずいせん)」と呼ばれる、同じヒガンバナ科の花です。
白色の彼岸花の花言葉
・また会う日を楽しみに
・想うはあなた一人
正に真っ白で純真といったイメージの言葉です。
白い彼岸花が咲くのは珍しいですが、白い彼岸花は、「黄色の鍾馗水仙と赤色の彼岸花の雑種」といわれています。
彼岸花にまつわる迷信
彼岸花には、3つの怖い迷信があります。
彼岸花を家に持って帰ると火事になる
彼岸花の赤い色と形を見て、昔の人は、炎を思い浮かべたようです。
その彼岸花を、家に持って帰ると、家に炎が出て火事になるという連想から生まれた迷信だと考えられています。
彼岸花を摘むと死人がでる
昔、遺体を土葬にしていた時代には、土に埋まっている遺体が、モグラに食べらることがありました。
それを避けるため、墓の周りに毒のある彼岸花を植えて、モグラが寄り付かないようにしたといいます。
遺体の近くに植わっている彼岸花を摘んでいると、そこに埋まっている遺体(死人)に出くわしてしまうこともないとは言えないので、このような迷信が生まれたといわれます。
彼岸花を摘むと手が腐る
これは、毒がある彼岸花を触らせないようにするため、「手が腐る」という迷信にして伝えられたと考えられています。
子供たちを、少しでも危険から遠ざけようとした、大人たちの知恵だったのかもしれません。
まとめ
彼岸花は、毒をもっているということから、ちょっと怖い別名や迷信が生まれていったようです。
その一方で、害虫や害獣よけに使われたり、毒抜きをして食用として使われたりと、彼岸花は、人にとって有益な植物だったことも確かです。
昭和初期には、彼岸花からデンプンを製造する企業もあったくらいです。
彼岸花にたくさんの別名があるのは、それだけ人との関わりが多かったことの証なのかもしれませんね。
お彼岸の意味と由来 >