日本人の睡眠時間は、年々短くなっていく傾向があって、50年程前と比べると1時間程度短くなったともいわれています。
その影響もあって、最近では、「睡眠不足症候群」という睡眠障害が増えてきているといわれています。
睡眠不足症候群
「睡眠不足症候群」は、睡眠が不足することが原因で起こる睡眠障害で、症状としては「昼間の強い眠気」がよくみられるといわれています。
午後の眠気
睡眠を十分にとっていても、昼食を食べた後の午後2時頃に眠くなるということはよくあることです。
人間の眠気にはリズムがありますが、午後2時頃に眠くなるというのは、昼食を食べたから眠くなるというよりも、人間の生理現象といった意味合いの方が強いともいわれています。
そのため、睡眠を十分にとっていても、日中にある程度の眠気を感じるのは、自然なことといえそうです。
昼間、眠気を感じた時に昼寝をすると、集中力のアップや作業効率の向上につながるということが分かっているので、午後に20~30分程度の仮眠の時間を設けている企業もあるようです。
昼間に感じる眠気は生理現象なので、多少の眠気ならそれほど気にする必要もないかもしれませんが、我慢できないような眠気が続くような場合は、「睡眠不足症候群」の可能性があるかもしれません。
本人は睡眠不足を自覚していない
「睡眠不足症候群」の大きな特徴は、「本人が睡眠不足であるということを自覚していない」ということだといわれます。
眠くなる原因を正しく認識できていないということが、事態をより深刻にしてしまうといわれます。
例えば、睡眠不足のために疲労がたまっているのに「仕事が忙しいから疲れている」と勘違いしているような場合は、
睡眠不足が原因であるということを、きちんと把握できていないので、睡眠をしっかりとろうとはせずに、仕事を早く終わらせることが大事と考えて仕事に没頭してしまい、かえって睡眠時間を削ってしまうという悪循環に陥ることもあるといいます。
睡眠不足症候群が重篤な病気の原因に
「睡眠不足症候群」は、「単なる睡眠不足」とは違うといわれます。
睡眠を十分にとらないと、脳細胞が破壊されて認知症や記憶障害を引き起こす可能性が高くなる、という指摘もあるようです。
また、心臓への負担が増え、心筋梗塞や狭心症の原因になったり、生活習慣病やうつ病を発症したりするリスクが高くなるともいわれます。
さらには、「睡眠不足」は「肥満の原因」になるといわれることもあります。
「ただの睡眠不足」と放っておくのではなく、適切に対処することが大切です。
睡眠不足症候群のチェック
「睡眠不足症候群」は、慢性的な睡眠不足が続いている状態ですが、次の項目に当てはまるような場合は、睡眠不足症候群を疑ってみる必要がありそうです。
・日中の強い眠気が3カ月以上続いている。
・休日の睡眠時間は、平日よりも2時間以上長い。
・週の後半の方が眠気が強い。
・睡眠時間が不足しているという自覚はない。
・イライラすることが多い。
・頭がボーッとして集中力が続かない。
・体がだるくて胃腸の調子がよくない。
自分にとってのベストな睡眠時間
人口の1割くらいの人が、慢性的な日中の眠気に悩んでいるといわれますが、その大半が睡眠不足によるものだといわれます。
特に、休日と平日の睡眠時間の差が2時間以上ある場合は、休日に平日の睡眠不足分を補っている可能性が高いといわれ、週の後半に眠気が強くなるような場合は、次第に睡眠不足による疲労がたまっていっている可能性が高いといわれます。
まずは、自分にとっての「最適な睡眠時間」を知ることが重要になりそうです。
何時間くらい眠れば、朝すっきり目覚めて、日中元気に過ごすことができるのか。
そして、それだけの睡眠時間をとるためには、何時に眠って何時に起きるのが自分にとってベストなのか。
睡眠不足になりやすい2つのタイプ
睡眠不足になりやすい代表的なパターンとして「多忙タイプ」と「夜更かしタイプ」の二つのタイプがあるといわれています。
多忙タイプ
働き盛りの社会人や受験生に多いとされるのが、「多忙タイプ」です。
真面目な完璧主義の性格の人に多いとされるタイプで、仕事を仕上げるために毎日夜遅くまで仕事をしたり、睡眠時間を削ってでも勉強するなどして、睡眠時間が短くなることが習慣化していることが多いといわれます。
このタイプの人は、仕事や勉強のやり方やスケジュールなどを見直す必要がありそうです。
睡眠不足の状態で仕事や勉強を続けていると、効率は確実に下がって、ケアレスミスなどもしやすくなってしまいます。
夜更かしタイプ
夜遅くまで自分の好きな趣味などに没頭している人に多いとされるのが、「夜更かしタイプ」です。
インターネット、SNS、ゲームなどを夜遅くまでしていて、ついつい就寝する時間が遅くなってしまうという人も少なくありません。
このタイプの人は、睡眠不足になる原因がはっきりしているので、単純に夜のパソコンやスマートフォンなどを早めに切り上げるか、別の時間にするようにすれば、睡眠時間を確保することができるようになります。
夜更かしをしていると、イライラしやすくなり、周りの人との人間関係にも影響が出てしまうこともあるので、早めに生活習慣を見直すようにしたいです。
「睡眠不足」と「肥満」
「最近、太ってきたなあ‥」と感じている人、夜はよく眠れているでしょうか。
さまざまな病気の引き金になるといわれている「肥満」ですが、意外にも、「睡眠不足」になると「肥満」になりやすいといわれています。
睡眠不足になると、寝ている時間が短くなる分、起きている時間が長くなるので、それだけエネルギーの消費量も増えて痩せそうにも思いますが、実は全くの逆というわけです。
アメリカの大学で行われた、睡眠と肥満に関する調査の結果では、平均睡眠時間が7時間のグループを基準にした場合、睡眠時間が6時間だと23%、5時間だと50%、4時間以下だと73%も肥満になる確率が高くなったといいます。
睡眠時間に左右されるホルモンの分泌が肥満に影響
睡眠不足になると太りやすくなる原因の一つに、「食欲をコントロールするホルモンの分泌異常」があるとされています。
食欲や代謝を司るホルモンに、「レプチン」と「グレリン」があります。
「レプチン」は、体内に脂肪が増えると、食欲を抑えてエネルギーの消費を増やす方向に働く「食欲抑制ホルモン」です。
一方の「グレリン」は、食欲増進と血糖上昇の方向に働く「食欲増進ホルモン」で、分泌量が増えるほど、カロリー摂取量が増えるようになるので、肥満につながりやすくなるといいます。
食欲抑制ホルモンの「レプチン」は「痩せ」、食欲増進ホルモンの「グレリン」は「太り」のホルモンといえますが、これらのホルモンの分泌量を左右するのが「睡眠時間」で、その分岐点が6時間といわれています。
睡眠時間が6時間以下になると、食欲抑制ホルモンの「レプチン」の分泌が減り、食欲増進ホルモンの「グレリン」の分泌が増えるとされています。
「睡眠時間が6時間以下」になると、体は「太りやすい状態」になるというわけです。
研究によって、睡眠時間が5時間の場合は、9時間の場合に比べて、レプチンの分泌量が約16%減り、グレリンの分泌量が約15%増えるということが分かっています。
睡眠時間が短くなると、食欲が増進するということです。
痩せたいと思ったときには、食べたいという欲望をグッと我慢して食事量を減らし、摂取カロリーを抑えるというのが一般的なダイエットです。
しかし、睡眠不足になると、食欲が旺盛になってしまって、頭では食事量を減らそうと思っていても、ついつい食べてしまうという状態になってしまいます。
肥満を解消しようとするときには、意識的にカロリーを制限しますが、睡眠を十分にとることで、生理的にも食欲を抑えやすい状態にして、よりスムーズにカロリー制限ができるようになるというわけです。
脂肪の燃焼に関わる「成長ホルモン」
「基礎代謝」は、心臓を動かしたり、呼吸をしたりといった、何もせずにじっとしていても、生命を維持するための活動に必要になるエネルギーです。
一般的に、基礎代謝は、成人男性で一日1,600キロカロリー、成人女性で1,200キロカロリー程度といわれていますが、基礎代謝が高くなれば、それだけ消費エネルギーも多くなるので、太りにくくなります。
ダイエットで、よく基礎代謝を上げるようにといわれるのもこのためです。
この基礎代謝を上げる作用をもつのが「成長ホルモン」ですが、成長ホルモンは深い眠りの「ノンレム睡眠」の際に多く分泌されるということが分かっています。
成長ホルモンには、余分な脂肪を燃焼させる働きがあるとされていて、深い眠りが十分にとれていれば、成長ホルモンが多く分泌され、カロリー消費量も自然に高くなるといわれます。
睡眠時間が不足すると、成長ホルモンが分泌されにくくなって、太りやすくなってしまうというわけです。
脂肪の燃焼に関わる「コルチゾール」
人の体は、眠っているときにも活動しています。
脳や筋肉が活動するためにはエネルギーが必要になりますが、眠っている間は、食事をしてエネルギーを補強することができないので、体内に蓄えられているブドウ糖や脂肪をエネルギーに変えているといわれます。
睡眠時に分泌されるホルモンのコルチゾールは、脂肪を燃焼させてエネルギーに変える働きがあるとされています。
一般な睡眠の場合、コルチゾールは、午前3時頃から分泌され始め、朝に近づくにつれて体温の上昇とともに増えていって、目覚めに至るといわれています。
睡眠不足でコルチゾールの分泌量が少なくなっても、太りやすくなってしまいます。
コルチゾールは、朝方に分泌量が多くなりますが、睡眠ホルモンのメラトニンの分泌量とは反比例の関係にあるといわれています。
朝方にコルチゾールの分泌量が増えるほど、メラトニンの分泌量は少なくなっていくので、朝の目覚めが良くなるという効果も期待できそうです。
まとめ
睡眠不足になると、眠気のほかにも様々な症状が現れますが、それらの症状は、体が発しているイエローカードといえます。
睡眠不足をそのまま放っておくと、重篤な病気につながりかねないともいわれます。
忙しい毎日を送っていると、十分な睡眠をとることは難しいかもしれませんが、健康のためにも、睡眠不足にならないよう、十分な睡眠をとるように心がけたいです。
日中に強い眠気が続くようなら、生活環境を見直してみて、それでも改善されなければ、早めに専門医に診てもらいましょう。