1日中仕事や家事を頑張って、体は疲れているはずなのに、どういうわけか布団に入ってもなかなか眠れない。
やっと眠れたかと思ったら、今度は夜中に何度も目が覚めてしまう。
これは「不眠症」の状態といえそうですが、不眠症になると、集中力がなくなったり、ボーッとしてやる気が出なくなったりして、日常生活に支障をきたしてしまうこともあります。
不眠症で悩んでいる人は思った以上に多く、成人の5人に1人が不眠症に悩んでいるともいわれています。
不眠症のタイプ
「不眠症」は、大きく4つのタイプに分けることができるといわれますが、これらの症状のうちの1つだけが現れる場合もあれば、複数が重なって現れる場合もあるといわれています。
入眠障害(なかなか寝付けない)
布団に入っても、なかかな眠りにつくことができないタイプの不眠症が「入眠障害」です。
眠るまでに30分~1時間以上かかる場合が、このタイプの不眠症といわれます。
なかなか眠れないので、「眠らないといけない」という思いが強くなって、余計に眠れなくなることも多いといわれます。
「入眠障害」は、最も多く見られる不眠症のタイプといわれます。
中途覚醒(夜中に何度も目が覚める)
入眠については特に問題はないけれども、眠りが浅く、夜中に何度も目を覚ましてしまいまい、一旦目が覚めると、その後はなかなか眠れなくなるタイプの不眠症が「中途覚醒」です。
「中途覚醒」は、高齢者に多く見られるタイプの不眠症といわれます。
早朝覚醒(朝早く目が覚める)
朝、早い時間に目が覚めてしまうタイプの不眠症が「早朝覚醒」です。
入眠や睡眠中には特に問題はなくても、十分な睡眠時間が確保できなくなってしまうといわれます。
高齢者やうつ病などの精神疾患の人に多く見られるタイプの不眠症といわれます。
熟眠障害(熟眠感がない)
睡眠時間は十分にとれていても、眠りが浅くて熟睡できておらず、起床後の熟睡感も感じられないタイプの不眠症が「熟眠障害」です。
「熟眠障害」は、入眠障害、中途覚醒、早期覚醒といった、分かりやすい症状がないので、一見すると、睡眠に問題があるとは感じられず、見過ごされてしまいやすいタイプの不眠症といわれます。
不眠症の原因と解消するための対策
不眠症を解消するためは、まずは「不眠になっている原因」を把握することが大切です。
不眠症の状態が長く続いているような場合には、すぐに不眠症を解消することは難しいかもしれませんが、原因をしっかり把握して正しく対処をすれば、ほとんどの不眠症は改善することができるといわれています。
不眠症の原因となる要因にはさまざまなものがありますが、大きく6つに分けることができるといわれます。
・心理的な要因:悩み、不安、ストレスなど
・生活リズムの乱れ:起床、就寝、食事、運動など
・環境面の要因:光、騒音、気温、湿度など
・薬理的な要因:ニコチン、カフェイン、アルコールなど
・加齢の影響:体質の変化
・更年期の影響:ホルモンバランスの乱れ
「心理的な要因」の不眠症対策
悩み、不安、ストレスなどの感情の乱れは、不眠症を引き起こす、大きな要因になるといわれます。
ネガティブな感情だけではなく、強い高揚感があるような興奮した状態でも、不眠になることがあるともいわれています。
要因を書き出す
不眠症の原因が悩み、不安、ストレスなどの心理的な要因かもしれないと感じる場合は、思い当たることを書き出してみます。
書き出すことによって、悩んでも仕方のないことを悩んでいたり、不安の解消法が見えてきたりして、眠れるようになることも。
ストレスが要因になっている場合には、自分なりのストレス解消法を見つけることが大切になります。
何が不眠症の原因になっているのかを把握することで、普段の生活で、そのことにどう対処すればいいかを考えるのに役立てることができます。
眠気を感じるまでは布団に入らない
「心理的な要因(感情の乱れ)」が不眠症の原因になっている時には、気分が落ち着いてから就寝するようにするのがいいといわれます。
梅干しやレモンなどを見ただけで唾液が分泌されるという「条件反射」があるように、睡眠でも「布団=眠る」というイメージが強くなれば、布団に入ってからより眠りやすくなるとされています。
感情が乱れたり昂ったりしている状態で布団に入ってしまうと、眠りにくいだけでなく、「布団=眠れない」という条件付けがされてしまい、さらに不眠症が続く原因にもなりかねません。
睡眠にとって好ましくない条件付けを避けるためにも、眠くなってから布団に入るように。
「生活リズムの乱れ」の不眠症対策
「生活のリズムの乱れ」が原因で、不眠症になってしまうことがあるといいます。
規則正しい生活が送れていないと感じたら、1日の生活パターンを日誌につけてみるといいです。
起床時刻、就寝時刻、食事をした時刻、眠気を感じだ時刻、その日の行動などを簡単に記録していけば、毎日の生活のリズムが分かり、どこを改善すればよいかが分かりやすくなります。
人間の生活には「リズム」がありますが、1日のリズムは「サーカディアンリズム」と呼ばれていて、人はこのリズムに沿って生活をしています。
一方で、人間には「体内時計」がありますが、この体内時計の周期は24時間よりも長いということが分かっています。
1日の24時間とは、少しズレているということになります。
このズレを、朝、日光を浴びることで体内時計をリセットして、サーカディアンリズムに合わせています。
朝に日光を浴びないと、少しずつ体内時計がズレていってしまいます。
体温のリズム
体温にも、リズムがあります。
一般的に、体温は、早朝の4時前後に一番低くなり、その後徐々に上昇していき、夕方の5時前後にピークを迎えます。
早朝の体温が低い時間帯には、血圧の変動も大きくなるので、朝起きてすぐにジョギングなどをするのは避けた方が無難です。
まずは、お茶などを飲んで、体を起こしてから行動を開始するようにしましょう。
眠気のリズム
眠気にも、リズムがあります。
午後2時頃には、軽い眠気が襲ってきますが、これは昼食を食べてお腹がいっぱいになったからというわけではありません。
眠気のリズム自体が、そういうリズムになっているということです。
眠気にリズムがあることは昔から知られていて、例えば、昔の職人さんなどは、眠くなって集中力が下がったり、事故が起こったりしないように、八つ時(今の午後2時)になると、お菓子を食べたりお茶を飲んだりして休憩していました。
これが、「おやつ」の始まりです。
朝起きる時間を一定にする
生活リズムを整える第一歩は、朝起きる時間を一定にすることだといわれます。
一日のスタートする時刻を一定にすることで、生活リズムが整いやすくなり、日中に、十分な「セロトニン」を分泌することが可能になるといわれています。
「セロトニン」は、意識を覚醒させる作用がある脳内物質で、起床直後に多く分泌されますが、時間の経過とともに分解されて、睡眠ホルモンの「メラトニン」が生成されていきます。
夕方から夜にかけて次第に眠気が強くなっていくのは、「セロトニン」が分解されて「メラトニン」が生成されていく、ということが大きな要因になっているといわれています。
朝起きる時間が不規則になると、「セロトニン」や「メラトニン」の生成リズムも崩れてしまい、スムーズに寝つくことができなくなってしまいます。
朝起きる時間を一定にすることで、夜も同じような時間に眠気を感じるようになり、就寝する時間も一定するようになっていくといわれています。
朝起きたら日光を浴びる
人の体は、「日光」を浴びることで、「セロトニン」の分泌量が多くなるという性質があるといわれています。
朝起きて「日光」を浴びることで、多くの「セロトニン」が分泌され、日中は活発に活動して、夜には「メラトニン」が増えて自然に眠くなるという、メリハリある生活を送ることができるようになるといいます。
不眠症の人は、日光を浴びる時間が少ない傾向があるともいわれているので、特に、朝は意識的に日光を浴びるようにするといいです。
朝食にトリプトファンを多く含む食べ物を食べる
「トリプトファン」という栄養素を原料として作り出される「セロトニン」は、体内時計をリセットして、睡眠と覚醒のリズムを作り出すといわれます。
「トリプトファン」は、食事から摂取する必要がある栄養素ですが、朝食で「トリプトファン」を十分に摂取しておけば、「セロトニン」も十分に分泌され、昼は活発に行動し、夜には自然に眠りにつけるという、良いリズムになりやすいといわれています。
快眠に欠かせない「トリプトファン」/多く含む食べ物と食事 >
午後2時頃には、睡眠のリズムのために、軽い眠気に襲われることがありますが、この時、20分程度の「軽い昼寝」をすれば、以降のアクティブな行動には効果的だといわれています。
軽く「昼寝」をすることで、以降の活動をアクティブに保つことができ、夜の睡眠に向けて良い影響を与えるといわれます。
日中に適度の運動をする
ウォーキング、サイクリング、ヨガ、ストレッチなどの「適度な運動」を日中に行うことで、「セロトニン」の分泌量を増やす効果が期待できるといわれます。
特に、野外で行うウォーキングやサイクリングなどは、日光を浴びることもでき、ストレス解消の効果も期待できます。
活動している間に睡眠物質がどんどん溜まっていき、それが睡眠を引き起こすエネルギーになるともいわれています。
日中、アクティブに活動するほど睡眠物質が溜まっていき、夜になると寝つきやすくなり、良質な睡眠がえられやすくなるといわれます。
「環境面の要因」の不眠症対策
光、騒音、気温や湿度など、外部の環境の影響で不眠症が引き起こされることがあるといわれます。
照明の色を変える
一般的な「蛍光灯」は、「交感神経」を刺激して活発にする作用があるといわれています。
「交感神経」は緊張や集中などをしている時に働く神経なので、「交感神経」が活発に働くと睡眠を妨げることになってしまいます。
照明の色を「蛍光灯」から、オレンジなどの「暖色系」に変えることで、「交感神経への刺激を軽減」して、寝つきをスムーズにすることができるといわれます。
寝つきを良くするためには、就寝する2~3時間くらい前からは、暖色系の灯りの部屋で過ごすようにすると良いといわれます。
また、「直接照明」ではなく「間接照明」を使えば、「副交感神経」の働きを活発にすることができるので、よりリラックスした状態になりやすいともいわれています。
寝室はできれば真っ暗に
基本的に、「灯り」は睡眠の妨げになります。
寝室を真っ暗にして眠ることが、不眠症の改善には効果があるとされています。
「中途覚醒」や「熟眠障害」の不眠症の場合は、眠るときに部屋の明かりをすべて消さずに、豆電球などの灯りつけて眠る傾向が強いといわれます。
しかし、「灯り」は「交感神経」を刺激することになるので、熟睡にはつながらず、不眠症の原因になってしまうことが多いとされています。
部屋の灯りを完全に消して「真っ暗」にするだけで、不眠症の改善が期待できることもあるといわれます。
しかし、それまで灯りをつけて眠っていたのに、急に真っ暗な部屋で眠るとなると、かえって不眠症が悪化してしまうことがあるともいわれます。
人間には、もともと暗闇を恐れるという性質があるので、部屋を真っ暗にすると、周囲を警戒して交感神経が活発になり、眠れなくなってしまうことがあるからです。
部屋を真っ暗にすると眠れないという場合は、時間をかけて慣らしていくか、どうしても真っ暗では眠れない場合は、無理に暗くするのは避けた方がいいかもしれません。
温度・湿度を適切に
人間が最も眠りやすい室温は、「夏は26℃前後」「冬は17℃前後」だといわれています。
また、湿度は、夏冬関係なく「50~55%程度」が最も眠りやすいといわれています。
エアコンなどを使って、適切に調整するようにするといいです。
夏場は、エアコンのタイマーを使って、ある程度時間が経てば切れるようにすることが多いかもしれませんが、ある実験では、一晩中エアコンをつけて室温を一定にしておいた方が、睡眠効率が良かったという結果もあるようです。
良質な睡眠に関係の深い成長ホルモンは、入眠後3時間は多く分泌されるといわれているので、タイマーを利用する場合のセット時間は、3時間程度を目安にするのが良いかもしれません。
「薬理的な要因」の不眠症対策
「ニコチン」「カフェイン」「アルコール」などの摂取による、薬理的な要因が不眠症の原因になることがあるといわれます。
「ニコチン」や「カフェイン」は、交感神経を活発にして意識を覚醒させるので、日中に大量に摂取したり、寝る前に摂取したりすると、不眠症につながりやすいといわれています。
寝る前の「アルコール」の摂取は、副交感神経を刺激するので、入眠を促進するという効果はありますが、睡眠中にアルコールを分解することになり、肝臓などの臓器が活発に活動することになるので、「中途覚醒」「早期覚醒」「熟眠困難」などの不眠症の原因になってしまうともいわれます。
寝る前の摂取を控える
「ニコチン」「アルコール」「カフェイン」などの刺激物は、寝る前に摂取するのは避けた方が無難です。
カフェインは午後から控える
「カフェイン」は、長時間にわたって効果が残りやすいといわれています。
「カフェイン」の効果が続く時間には個人差がありますが、一般的には、6時間前後は効果が続くといわれています。
閉経していない女性は、さらに長い時間「カフェイン」が残る傾向があるともいわれています。
「コーヒー」「紅茶」「緑茶」など、「カフェイン」が比較的多く含まれているものは、午後からはできるだけ摂取をしないようし、摂取するとしても少量に止めるようにしたいです。
また、摂取する時間帯に関係なく、一日あたり250mg以上のカフェインの摂取は、睡眠に確実に影響を及ぼすともいわれているので、できるだけカフェインの摂取は控えるように。
「加齢の影響」の不眠症対策
加齢によって、いろいろなホルモンの分泌が減少していきますが、睡眠を安定させるメラトニンも、50歳前後になると、ピーク時の10分の1程度にまで分泌量が減ってしまうといわれています。
同時に、成長ホルモンの分泌量も減少していくので、体力の回復に時間がかかるようになり、日中の運動量が減ったり昼寝の時間が長くなったりして、睡眠にもメリハリがなくなっていくことが多くなるといわれます。
夕方に運動をする
高齢になり、夜眠れなくなってくると、「疲れなければ眠ることができない」と考えて、午前中から積極的に運動をする人もいますが、加齢によって体力は確実に落ちているので、疲れも溜まりやすくなっていて、午前中に運動することによって、昼寝の時間が長く深くなってしまうことも少なくありません。
こうなると、運動をして溜まった疲労が昼寝をすることでリセットされてしまい、逆に、夜に眠れなくなってしまうということにもなりかねません。
運動をするのなら、午後3時以降にするようにするのがいいかもしれません。
夕方に軽い運動や散歩、買い物などをすることで、夜に向けて睡眠圧を高めていくことができるからです。
メラトニンの減少を食事で補う
「メラトニン」の減少は、ある程度は食事によって補うことができます。
「メラトニン」を多く生成できるようにするため、上記にも記載した、「トリプトファン」を豊富に含んだ食材を積極的に摂取するようにするといいです。
「更年期の影響」の不眠症対策
更年期の不眠症の主な原因は、「ホルモンのバランスが乱れる」ことにあるといわれています。
女性ホルモンの「エストロゲン」には眠気を抑制する作用があり、「プロゲステロン」には眠気を促進する作用があります。
これらの女性ホルモンのバランスが崩れると、睡眠中枢にも影響を及ぼし、睡眠の質が悪くなってしまうといわれますが、更年期には、「プロゲステロン」の分泌が低下することで「眠くなる」ことが少なくなるといわれています。
また、年齢を重ねると、必要とする睡眠時間は一般的に短くなり、若い頃と同じくらいの睡眠時間は必要としないことがほとんどですが、以前と同じだけ眠れないということにギャップを感じてしまうことも少なくないといわれます。
睡眠状態誤認
更年期の頃になると、実際に眠れなくなる人がいる一方で、「睡眠状態誤認」という更年期の女性が陥りやすい不眠症になる人もいるといわれます。
「睡眠状態誤認」とは、実際は眠れている状態なのに、本人は眠れないと悩む不眠症のことです。
「睡眠状態誤認」では、実際に睡眠の状態を調べてみると、きちんと睡眠はとれているので、客観的に見れば不眠の状態ではありませんが、本人は眠れていないと感じていて、つらい思いをしています。
どうして「睡眠状態誤認」が起こるのか、はっきりとしたことは分かっていないようですが、「○○時間寝ないと体に良くない」「若い頃と同じだけの睡眠とらなければならない」などのように思い込んでしまう、性格的に神経質で几帳面な人が、自分の睡眠を過小に評価するために起こることが多いといわれています。
睡眠状態誤認の場合には、睡眠薬を使うより、認知療法で「自分の睡眠には問題がないこと」ということを、本人が理解して納得することで改善されていくとされています。
更年期の不眠症は一時的
更年期の不眠症は、閉経にともなうホルモンのアンバランスが解消されていけば、自然となくなっていくといわれています。
更年期の不安定な心身の状態は、一時的なものなので、無理をせずに、大らかな気持ちでいることが大切です。
ただ、症状が強くて辛いときには、我慢しすぎずに専門医を受診して、ホルモン療法などの治療を受けてみるのも一法です。
まとめ
不眠症にはさまざまな原因がありますが、それに応じた対策を取ることで症状を軽減することが可能だといわれます。
最近では、不眠症外来がある医療機関も増えてきています。
根本的に不眠症を治療したいという場合には、そうした医療機関を受診するのが良いかもしれません。
しかし、不眠の症状が軽度であれば、自力で改善することも十分に可能だといえます。
まずは、不眠症の原因を特定し、生活習慣や生活環境を見直してみて、原因に沿った対策を講じてみましょう。