「来週は忙しくなりそうだから、この週末に寝溜めをしておこう」「普段は寝不足気味だから、休日には寝溜め」‥。
「寝溜め」とは、将来の睡眠不足に備えて、予めたくさん寝ておいて睡眠を溜めておこうということですが、実際のところ、睡眠を貯金のように溜めておくことはできないといわれています。
寝溜めをしようとすると、本当に必要な睡眠に加えて、寝溜め分の睡眠を取ろうとするので、結果的に、本来必要とする睡眠時間よりも長い時間の睡眠をとってしまうことになります。
しかし、睡眠は、「深い眠りのノンレム睡眠」と「浅い眠りのレム睡眠」を交互に繰り返しながら、体や脳の疲れを回復していき、朝に近づくと浅い睡眠が続いて目覚めていくとされていて、必要以上に長く眠ったとしても、浅い眠りが続くだけだといわれています。
寝溜めをしようとして無理に寝ようとすると、浅い眠りが続いて頭がボーっとしたり、寝過ぎによって脱水症状に似た症状が起こったりして、体調を崩す原因になりかねないともいわれています。
寝溜め
寝溜めで乱れる体のリズム
人の体には、1日のリズムを刻む「体内時計」といわれる機能が備わっていて、特に意識をしなくても、日中は活動的な状態になり、夜になると休息する状態になるとされています。
「寝溜め」をしようとして、無理に長い時間の睡眠をとると、この体内時計が乱れてしまうといわれています。
体内時計は、朝に光を浴びることでリセットされてリズムを刻み始め、夜になると自然に眠気を感じるようになります。
朝起きて日光を浴びると、とても爽快な気分になりますが、同時に体内では、睡眠ホルモンの分泌がストップして体内時計がリセットされます。
そして、そのリセットから14~16時間後には、眠気を感じるようになるといわれています。
体内時計が正確に働けば、朝7時に起床した場合には、夜の9~11時頃には、自然に眠気を感じるようになるというわけです。
睡眠時間や起床時間は、ある程度一定に保っておかないと、体内時計が正常に働かなくなってしまい、寝つきが悪くなって、熟睡もしにくくなってしまいます。
休日は、「寝溜め」をするチャンスと思うかもしれませんが、「寝溜め」をしようとして、休日にだけ、極端に長い時間の睡眠をとると、いつもリセットされるはずの時間に体内時計がリセットされずに乱れてしまって、逆に不眠になってしまい、体調を崩す一因になることもあるといわれます。
たまに、昼頃まで寝た日には、「よく寝たはずなのに、何となく体が重く感じて調子が良くない」と感じることも。
これは、体内時計が乱れてしまったことが、大きな原因になっていると考えられています。
体調が良い状態で過ごすためには、睡眠のリズムは、ある程度一定に保つことが肝心だといわれます。
将来への寝溜めはできないが、過去の睡眠不足分の解消は可能
「来週は忙しくなって睡眠時間が短くなりそうだから、今のうちに寝溜めをしておこう。」と考えることがあるかもしれませんが、将来の睡眠不足のために、前もって睡眠を溜めておくことはできないといわれています。
しかし、日頃、睡眠不足の状態が続いている場合には、長めの睡眠をとることで、過去の睡眠の不足分を解消することは可能だとされています。
つまり、普段よりも長く眠った分を、将来のために「溜めておく」ことはできませんが、過去の睡眠の不足分を「解消する」ことに充てることはできるというわけです。
慢性的に睡眠が不足している場合には、休日に少し長めの睡眠をとって、睡眠不足の状態を解消することで、体調が復活するということはよくあることです。
ただし、睡眠を長くとる場合でも、普段よりも極端に長く眠るというのは逆効果になってしまうといわれています。
長く眠る場合でも、いつもより長く眠る時間は、せいぜい1~2時間程度にしておいて、体内時計を大きく狂わせないようにすることが大切ということです。
普段より長く眠る場合、起きる時間を遅くするよりも、就寝する時間を早くした方が、体内時計が狂いにくいといわれているので、睡眠不足を解消する場合には、「朝遅く起きる」よりも「夜早く寝る」ようにした方が良さそうです。
1~2時間くらい長く眠っても、睡眠不足が解消できないというような場合には、「昼寝」を上手く活用する方法もあります。
昼寝
「昼寝」をすると夜に眠りにくくなってしまうと思うかもしれませんが、「昼寝」に関しては、午後3時くらいまでなら、20~30分程度の昼寝をしても、夜の睡眠にはほとんど影響を与えないといわれています。
日頃の睡眠不足の解消に、「昼寝」をうまく活用できそうです。
短い時間でも、実際に眠るということは、ただ休憩するのとは大きな違いがあるとされています。
「昼寝」と聞くと、「気楽」「怠けている」といったマイナスのイメージをもつ人もいるようですが、「短時間の昼寝」をすることで、いろいろなプラスの効果が得られることが分かってきています。
昼食を食べた後に眠くなるということは誰にでもありますが、昼過ぎに眠くなるというのは、人間の本能的なものだともいわれます。
しかし、仕事をしていたり学校で勉強していたりすると、午後になって眠くなっても、そのまま寝てしまうことはなかなかできません。
「このまま寝てしまえばどんなに幸せだろうな‥」と思っても、そこはグッと我慢して無理やり目を開けておくことがほとんどです。
しかし、午後に眠くなった時、短時間でも昼寝をすれば、その後の仕事や勉強の能率が高くなるということが分かっています。
「昼寝には、夜の睡眠の約3倍の効果がある」ともいわれます。
昼寝の効果
「短時間の昼寝」をすることで、いろいろな効果が期待できるといわれます。
疲労回復
「昼寝」には、夜の熟睡とほぼ同じ効果があるとされていますが、その疲労回復の効果は、通常の睡眠に比べて約3倍もあるといわれます。
「昼寝」から目覚めた時には、スッキリ感を感じることが多いですが、これは気のせいではなくて、実際に疲労が回復しているからというわけです。
記憶力を高める
アメリカで行われた「昼寝をするグループ」と「昼寝をしないグループ」に分けた記憶力の実験で、昼寝をしたグループの方が、昼寝をしないグループより、約5倍も記憶力が高かったという結果もあるようです。
睡眠中に、脳は情報の整理をしているとされますが、「昼寝」の際にも、同様の効果があるということのようです。
ある学習塾が、「昼寝」を取り入れることで、塾全体の成績を上げることに成功したという事例もあります。
勉強の効率を上げるためには、眠いのを我慢して勉強するより、眠くなった時には短時間眠ってから勉強した方が、記憶する効率が高くなるということのようです。
仕事の効率についても、同じことがいえそうです。
眠気対策(エネルギーの回復)
眠気対策のために、カフェインを含んだコーヒーを飲むことがありますが、これは、エネルギーを回復しているのではなく、カフェインの覚醒効果で眠くならないようにしているにすぎません。
根本的に体が疲れてしまっている場合には、いくらカフェインをとっても、期待したような眠気を覚ます効果を得ることは難しいというわけです。
耐性もついてくるので、日常的にコーヒーを飲んでいると、カフェインも次第に効かなくなっていきます。
これに対して、「昼寝」の場合は、短時間でエネルギー自体を回復させるので、根本的な眠気対策になるというわけです。
エネルギーそのものを回復させるので、耐性ができて効かなくなるというようなこともなく、むしろ習慣化することで、より質の高い昼寝ができるようになるともいえそうです。
心臓や血管へのダメージの軽減(病気の予防)
ガンや脳卒中と並んで、日本人の死因として多いのが心臓病。
アメリカやギリシャの大学で、昼寝をすることで心臓病のリスクが低下するという検証結果が報告されているいいます。
また、イギリスで、血圧が高めの約400人の短時間睡眠の効果を調べたところ、短時間睡眠しない人に比べて、血圧が約5%下がるという結果が得られているともいいます。
「昼寝」のような短時間睡眠が、心臓や血管へのダメージを少なくするというわけです。
同じ40代でも、忙しく働いているビジネスマンは、同年代の専業主婦に比べて、血圧が正常値よりも高めである割合が高いともいわれています。
働いている場合には、日中昼寝をすることは難しいかもしれませんが、「昼寝」ができる環境なら、積極的にした方が良さそうです。
効率のよい昼寝をするために
効果的な昼寝は、20分前後の短時間で
「昼寝」の時間が短すぎては効果がありませんが、逆に長すぎても脳が目覚めるまでに時間がかかってしまうので、効率的ではないといわれます。
「昼寝」の効果が現れ始めるのは、寝入ってから10分を過ぎた頃からだといわれていますが、30分を超えると本格的な眠りに入ってしまい、覚醒するのに時間がかかるようになってしまうといわれています。
効率的な「昼寝の時間」は、20~30分程度を目安にするのが良いとされているので、「昼寝」をする場合には、30分を超えて寝入ってしまわないように注意することが大切になります。
昼寝を始める時間帯は、14~15時がベスト
人間の体は、生理的に14~16時頃に眠くなるようになっているといわれています。
これは、昼食後、食べた物を消化しようとして胃に血液が集まってきて、脳の活動が低下する時間帯とも一致しています。
生理的に眠くなるこの時間帯に「昼寝」をするのがベストといわれます。
この時間帯に「昼寝」をすれば、夜の睡眠に影響を与えることもほとんどなく、午後の活動を効率的に行えるようになるといいます。
16時までが眠くなる時間だからといって、16時から「昼寝」をしてしまうと、目覚めるのは16時を過ぎてしまうので、「昼寝」の開始は遅くても15時までに。
遅い時間から「昼寝」をしてしまうと、夜に眠りにくくなってしまうこともあるので、要注意です。
昼寝前の一杯のコーヒー
昼寝の前にコーヒーを1杯飲んでおくといいかもしれません。
コーヒーに含まれるカフェインには覚醒効果がありますが、その効果が出始めるのは、飲んでから20~30分ほど経ってからだといわれています。
この「効き始めるまでの時間」が、効果的とされる「昼寝の時間」と一致します。
短時間で起きやすくするために、昼寝前の一杯のコーヒーがもってこいというわけです。
水分補給をしっかりと
水分が不足して、脱水症状に近いような状態になっていると、疲労を感じやすくなります。
せっかくの昼寝の効果を半減させないためにも、しっかりとした水分補給を忘れずに。
起きたら日光を浴びる
「昼寝」をしても、脳が覚醒しないと、せっかくの昼寝の効果も半減してしまいます。
脳を覚醒させるには、昼寝から起きた後の日光浴が効果的といわれます。
外に出るのが難しい場合には、窓の近くに行って日光を浴びるだけでもOK。
日光を浴びることで脳内のセロトニンが活性化して脳が覚醒しやすくなるので、以後の活動がより早く効率的に行えるようになるとされています。
日光を浴びる他にも「軽いストレッチ」「洗顔」「飲水」などを併せて行えば、よりスッキリ感が強くなるといわれます。
まとめ
将来に向けて「寝溜め」をすることはできませんが、少し長く寝たり昼寝をしたりすることで、睡眠が不足している状態を解消することはできます。
また、睡眠時間だけではなく、睡眠の質そのものを改善することも、より効果的な睡眠不足の解消につながります。
高い質の睡眠をとることを意識しながら、睡眠時間を微調整したり、昼寝などを取り入れたりして、本当に必要な睡眠時間を上手く確保するようにしたいです。