夫と暮らし始めたのが外国であったことや、周囲に友人がいなかったことが、宇宙人のような夫の不思議な感覚や行動に対する、私の反応を和らげていたと思います。
もちろん新婚であるというフィルターもあったでしょうが。
夫が「宇宙人」である原因は、アスペルガー症候群だった
母親に育てられず、養護施設や親戚の中をたらいまわしにされて育つと、躾とか一般的な家庭の状況からはかけ離れてしまって、こういう人物が出来上がるのかもしれないと考えました。
これから徐々に「家庭らしい生活」に慣れていってもらえるはずだと、初めのうちは考えていました。
でも、夫は、一向に馴染む気配がありませんでした。
一緒に買い物に行く、重い物を持ってもらう、家の中の簡単なDIY、電球の交換や電気系の配線、私の父親が家庭の中で担っていたような役割を期待できないということも、徐々に分かっていきました。
私は一人で買い物に行き、DIYも庭の作業も、電気系統のことも、全部私の役割です。
夫は、「俺は金を稼いでいる」からそれで充分役割は果たしていると、胸を張って言えるようになったのは、この十年位です。
アスペルガー症候群であるという特徴を考えると、これは大成功かも知れないと思っています。
一般的な夫や父親の役割に関して言えば、夫のアスペルガーな宇宙人具合に一番困っているのは、私です。
でも、アスペルガー症候群である脳みそをフル活用して、彼は自分の専門性を磨きました。
定職についてからは、それまでの低収入と帳尻を合わせるような稼ぎをしてくれています。
妻としては、稼げるアスペルガーになってくれたことに感謝して、他には目をつむるべきだと考えています。
アスペルガーの夫自信の工夫
夫が博士号を取る直前に、太郎は生まれました。
資格が取れてしまえば、在留資格がなくなってしまい、すぐに帰国する必要がありました。
まだ首が座らない新生児を抱えて、産後間もない私が、国際引っ越しを乗り切れるとは思えませんでした。
ですので、私は、飛行機に乗れるギリギリまで待って、猫を連れて先に日本に帰国して、里帰り出産をすることにしました。
その頃、夫にはまったく仕事のあてはなく、ヨーロッパ全域で研究職の道が残っていないか探していましたが、結局日本に帰国することを選びました。
専門職での仕事探しは難航し、つなぎで何か仕事をして、生計を立てる必要がありました。
その後、我々は夫婦+赤ん坊で外国人寮の住み込みの管理人をしたり、夫が常勤の職を得るまでは、かなりなサバイバル生活を送ることになります。
この間に、夫は大いに一般的なスキルを身につけました。
エクセルやパワーポイントが使えるようになり、手帳でスケジュールを一括管理する習慣も、この頃に身につけました。
私がそばにいて、彼のアスペルガー的な失敗に気付きやすかったので、職と生活を守るために、私は一生懸命フォローしました。
夫が、さも自力で何もかも仕事がうまくいっていると思えるように、こっそり工夫したりしました。
いつか夫が気付いて感謝される日も来ると思っていましたが、アスペルガーな脳みそに、その手の気付きは訪れないことが最近分かってきて、実はとてもがっかりしています。
いずれにしても、夫自身が仕事をこなす上で、自分の弱点をフォローし始めたことが、後の「仕事では大丈夫だ!」につながったと思います。
管理人の仕事は、マイペースに夫が仕事を組み立てられる、独自性の強い仕事でした。
夫自身が「論文を書きながらできる仕事」として見つけてきた仕事でしたが、周囲から見れば「東大大学院出て留学して博士号までとった人間が、住み込みの管理人?」と避難轟轟でした。
でも、この時期に夫が仕事を進めるため、独自の工夫を身につけたことが、後の専門職での成功に結び付いていると、私は考えています。
夫自信がアスペルガーと分かっていれば、それで十分
夫は、発達検査を受けたわけでも、医師の診断を受けたわけでもありません。
一度夫に、その必要性を聞いてみたことがあります。
自分がアスペルガー症候群という特性に当てはまると自覚はしているが、そのことを誰かに証明する必要はない、という返事でした。
まあ、その通りです。
夫自身、外ではアスペルガー症候群らしい性質を、精一杯張りつめて頑張って何とかしています。
帰宅して一気に気がゆるむので、宇宙人化が際立ちますが、困っているのは、ほとんど私だけです。(息子たちは、おもしろがっています。)
太郎でお世話になっている精神科医のお医者さんも、家庭でのエピソードから、夫がアスペルガー症候群であることはほぼ確実で、太郎のアスペルガーは、父親からの遺伝だと見ています。
太郎との関わりの中で、夫の特性を正しく理解する必要はあると思いますが、夫自身のアスペルガーな特性自体は、夫自身がフォローをしていて、社会的にも成功している今、検査や診断などの医療的アプローチは必要ではないのです。