アスペルガーと一緒にいて「情動」が「剥奪」されたロボットのような生活は、カサンドラ症候群の症状を悪化させます。
よって私は「情動」を、映画やドラマを観て補います。
宅配のDVDレンタルは強い味方で、年間100本ぐらいのペースで観ています。
アスペルガーの支援や関わり方のヒントとして
アスペルガーに関連するたくさんの作品を見るうちに、アスペルガー症候群や自閉症が(モデルとなって)登場している作品が結構あることに気が付きました。
UNDER THE SKIN(邦題:種の捕食)
最近「なるほどなぁ」と唸った作品は、『Under the Skin 種の捕食』です。
ジョナサン・グレイザー監督
スカーレット・ヨハンソン主演
ポール・ブラニガン, ジョナサン・グレイザー出演
スカーレット・ヨハンソンが、宇宙人(?)として人間の男性をお色気という疑似餌で“捕食”していくお話です。(まったく設定が説明されないまま終わるので、宇宙人かどうかも不明ですが)
スカーレットは、大きな車を乗り回して男性をナンパしては、不思議な家に連れ込みます。
ベッドに向かうと男性に思わせながら、奥に進むと男性は(不思議なプロセスを通して)死にます。
スカーレットは“捕食”を続けて行くうちに、だんだんと人間の怖さや弱さ、優しさに気付いて行き、怖くなって逃げ出します。
逃げた先で結局殺されてしまって映画は終わるのですが、スカーレットの役自身が“殺す”訳でも“食べる”訳でもなく、ただ色っぽいだけの弱者だということがポイントです。
観終わってみて「これはひょっとしてアスペルガーなどの特性を持つ女性がモデルなのではないか」と感じました。
誤解を恐れずにいうならば、アスペルガーなどの特性があるために、人の心の読み取りがイマイチよく分からないのに、大人に成長してしまってからは、否が応でも男女関係に巻き込まれて行ってしまう。
男性目線の性的な価値観はとても分り易いので、それに振り回されているうちに自分が傷ついてしまう。
宇宙人でも、外国人でも、アスペルガーでも、置き換えが可能なストーリーだと思いました。
GILBERT GRAPE(邦題:ギルバート グレイプ)
ラッセ・ハルストレム監督
ジョニー・デップ主演
レオナルド・ディカプリオ出演
タイタニック以前の19歳のディカプリオが、自閉症の少年を熱演しています。
ディカプリオは、アーニーというかなり重度の自閉症の子を演じています。
当初「美形の本物の自閉症」だと思って見ていたら、エンドロールでディカプリオだと分かってとても驚きました。
ディカプリオは、この役でいくつかの映画賞を受賞しています。
自閉症の奇異な行動だけでなく、邪気の無い透明感というか、そういったものまで表現していたんじゃないかと思います。
ジョニー・デップは、アーニー(ディカプリオ)のお兄さんの役です。
シザーハンズやパイレーツオブカリビアンのような、見た目を作り込んだ役のイメージが強いですが、人間らしい姿の役を演じると、ものすごい性格俳優になります。
この人に「普通」を演じさせたら、上手すぎて他人とは思えなくなります。
自閉症の少年とその家族の物語です。
「特別な子の母」としては、とても痛い所を突かれる作品ですが、頑張って最後まで見てください。
大丈夫、ハッピーエンドです。
自分には自分のハッピーエンドが自分で作り出せるように感じさせてくれます。
Good Will Hunting(邦題:グッド ウィル ハンティング 旅立ち)
ガス・ヴァン・サント監督
マット・デイモン脚本・主演
ロビン・ウィリアムズ出演
これも、アスペルガー君(マット・デイモン演)のお話です。
カウンセラー役は、ロビン・ウィリアムズ。
発達や能力のバランスを欠いた不安定さが、暴力性や自己肯定感の低さに結び付いて行く感じを、マット・デイモンが好演しています。
自分のアンカー(船のいかりをイメージして下さい)を見つけて行く様子が、映画になっています。
マット・デイモンがハーヴァード大在学中にベン・アフレックと一緒に書いた脚本です。
ハーヴァードに進学した頃から端役で映画に出だしたものの、26歳でこの映画に出演するまでは、全くの無名でした。
出来上がった脚本は、完成度が高くて映画化の話が出るものの、一回立ち消えています。
しかし、ベンが出演した映画のプロデューサーに再度脚本を見せ、映画化が始動します。
当時ノリに乗っていたロビン・ウィリアムを迎えて制作されました。
アカデミー賞では、助演男優賞でロビン・ウィリアムが受賞、脚本賞でマット・デイモンが受賞しています。
タイタニックと同じ年でしたので、興行的に地味な映画として、日本ではあまり注目されなかったかもしれません。
この映画は、思春期を迎えたHにそろそろ見せたいと思う映画です。
主人公が過去のトラウマや自分の能力と向き合えるようになったきっかけは、女の子を好きになったことだったからです。
将来、Hにもこういう出会いがあって欲しいと思います。
GATTACA(邦題:ガタカ)
アンドリュー・二コル監督
イーサン・ホーク主演、
ユマ・サーマン、ジュード・ロウ出演
近未来映画です。
冒頭、「そう遠くない未来の物語」とキャプションが入り、不思議なシーンで始まります。
成長、可能性、命、科学、夢、挫折をめぐって、ミステリーの全体像が掴めたら、結末がやってくるのを遠ざけたくなります。
あらすじをお知らせしてしまうと、この映画の良さが半減してしまうので、あれこれお教えできません。
自分の子どもに障害がある人も、障害を持つ本人も、どなたの立場から観ても、とても心に重く響く物語だと思います。
「そう遠くない」という表現が、とても深い意味を持ってきます。
Hには、もう少し後の方が、この映画の意味を考えやすいかな、と考えています。
多くの支援者や、子どもの育ちにかかわるお仕事の方々に観ていただきたい映画です。
この子達の可能性をつぶさないために、そう思える映画です。
TOUCH
キーファー・サザーランド主演
アメリカのテレビドラマです。
シーズン2で完結しました。
自閉症(に見えるけど実は宇宙の真理を支えている的な存在)の息子と、その父親の物語です。
テレビドラマとしては、非常に内容の濃い、複雑すぎるといっても良い内容です。
特にシーズン1は、ショートストーリーをつないで行く形で進行しますが、その一つ一つが映画であってもおかしくないような密度の濃い展開がなされます。
アメリカの映画やドラマは、ある時期から9・11同時多発テロの内容や影響を扱う作品が多く出ました。
別に紹介する「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」もそうです。
一線を越えた先に何かを見つけないといけない、そういった雰囲気が9・11の後にはあって、製作者やメディアの表現者もそういったテーマを表現したかったんだと思います。
アスペルガー症候群ではなく、サヴァン症候群とかの方が近い自閉症の少年が登場します。
母親を9・11テロで失い、父親(キーファー)が一人でその少年を育てています。
自閉症特有のパニックや問題行動のために、一人で育てるために仕事を犠牲にしてなんとかしようと頑張っています。
しかし、自閉症の息子は反応もなく、問題行動ばかりで、その父親に養育は無理だと保護局に判断されて子供を連れていかれてしまいます。
自分の愛情やケアを、誰にも認めてもらえない孤独感が父親を襲いますが、独特の方法で息子が自分にメッセージを残していることに気付きだします。
息子の思いを知りたくて、父親はメッセージに従って様々な場所に行ったり、電話をかけたりして行くうちに、事故を防いだり人の命を救ったりするのです。
話の内容は、だんだんスピリチュアルとか神の存在とかいった宇宙的な展開に向かっていきます。
実際には起こり得ない自閉症の劇的な改善や、自閉症である背景が壮大な救世主的な事情であったりと、展開はシーズン2に入ると急速に自閉症というテーマからそれて行きます。
まったくのファンタジーですが、アスペルガーやその他の自閉症の子を育てる親としては、とても救われる作品です。
Extremely Loud and Incredibly Close(邦題:ものすごくうるさくて、ありえないほど近い)
スティーブン・ダルドリー監督
トーマス・ホーン主演
サンドラ・ブロック、トム・ハンクス出演
主演のトーマス・ホーン君は、あるクイズ番組で優勝して高額賞金を獲得しました。
その番組を見ていたプロデューサーの目に留まり、スカウトされてこの映画に主演しました。
今のところ、この一本きりの出演です。
予備知識を持たずに見て頂いた方が絶対に良いのですが、アスペルガーのお子さんを持つお母さま方に、何としてもこの映画を見ていただきたい。
アスペルガーを知っている方ならば、「あぁ、この子はアスペルガー君ね」と気が付けるのですが、接したことのない方は、しばらく気が付かないうちに話が展開していくと思います。
この少年の目線や考えに従って話が進んでいきます。
話が最終的な段階に入るまで、アスペルガーという言葉は出てきません。
少年の考え方や感じ方が、観ている側に分り易いように、この映画は作られています。
そして、支援の在り方の理想がこの映画で観れます。
アスペルガーとの関わり方のヒントを、映画の中に見つけることも多いですし、どんなに苦労していても、自分が元々は愛情から支援している(育てている)ことを再認識させてくれます。